そういえば
いつだったか
右膝が痛かった時のことを思い出した
あの時は
痛くて 痛くて
歩くこともしんどかった
荷物を持つのも
大変だった
階段を上がるのもヒィヒィ
自転車をこぐと膝がこわれる
湿布を貼ったり
整体へ行ったり
だまし だまし
凌いでいた
そんな記憶もはるか彼方
今では 膝はまるで元気
あの時の痛みのことなど
思い出すこともなくなった
膝はすっかり良くなったけれど
あれから いくつの痛みを
次々に生み出してきただろう
その度に どれほど格闘して
乗りこえてきただろう
どれだけの痛みをやり過ごして
苦しい記憶が
他の記憶に塗りつぶされていっただろう
ひとつの痛みが消えたら
また別の痛みが生まれる
その痛みを乗り越えたら
また次の苦しみが待っている
まるで
痛みと苦しみを
くり返し くり返し
この身に生み出しながら
生きているように
まるで
体のすみずみまで
意識を目覚めさせるんだというように
そして
自分がどれ程の痛みに耐えられるのか
試しに来ているみたいに
痛みの程度も 時間も
その都度 グレードアップしていく
死ぬかな
と思うけど
なかなか死なない
立ち直るか 直らない間に
次はもっとヘビーな
痛手が待ち受けている
こんな痛みの階級を競うために
生まれてきたはずじゃなかったと思うけど・・・
私の目の前に 挑戦者は
引きも切らない
ただ
いつの間にか痛みがなくなった右膝は
どこかいとおしい
あの時 がんばったよね
そう話しかけたくなる
今は 膝に痛みがないことが
考えられないくらい 幸いだ
そんな大きな喜びを持っていても
また すぐに忘れてしまうけど
そして
今ある痛みと苦しみとに
喘いでばかりいるけれど
ああ 私は
どれほどの痛みと苦しみを味わうことで
私の膝があることに気づいたんだろう
膝があるから
歩けるし
上れるし
走れるし
誰かに会いに行けるのに
大きな痛みと苦しみは
それを埋め合わせるほどの
多きな喜びに通じている
今まで味わったことのない
幸せにつながっている
ああ
そう思うと
次から次へと
押し寄せてくれて
ありがとう
私の体を
すみずみまで繊細に感じさせてくれて
ありがとう
私が 生きていることに
こんなにも気づかせてくれて
ありがとう
今日の痛みと苦しみよ