音を打ち込んでいると、
いつしか、
深い無の感覚の世界に入り込んでいきます。


曲に合わせて、
ハイハットやシンバルの
微妙なニュアンスを
細かく、細かく修正していく時。


何度も、何度も同じループを聴きながら、
ぴったりの音色やタイミング、
音の大きさを選んで、修正していく時。


小さな針の穴を覗きこむような、
そんなミニマムな作業に集中していると、
周囲の雑音や、日常の雑事はすっかり忘れ、
自分とその小さな音の世界とが
一体となっていくような感覚に襲われます。


それは、不思議な沈黙感です。


自分を忘れ、
世事を手放し、
ある境地に到達していくような。


時間も空間も存在しない、
そんな宇宙に吸い込まれていくようです。


自分が何者でもなく、
何にも捉われない。


それは、
自分が最も覚醒している瞬間かもしれません。


そして、数時間かけて、
やっと1つの線が浮かび上がってくる、
という遅々とした歩みに
ペースを沿わせていきます。


その歩みは、
目的地へ向かい
一歩一歩と少しずつ大地を踏みしめながら
黙々と歩みを進めていく、
クライマーのようかもしれないな、
なんて思います。


そして、気がつくと
あっという間に時は去り、
あちらからこの現実へと呼び戻されます。


私は現実と数ミリ位ブレたまま、
また煩雑なこちらの世界に戻ってこようと、
ぼんやりとした意識に
なんとかピントを合わせていきます。


くるくるとアップデートをくり返す
この忙しい現実の中で、
こんなふうに時間を使うのは
あまりにも非効率なのかもしれません。


けれど、この効率を追い求める現実の中で、
心も振り回されそうになっている時に。


ここに来れば、
またしっかりと自分を取り戻すことができる。


そんな確信すら湧いてくるのです。


ここは、何か新しいものが生まれ、
形づくられていく場所。


このような時間を持てるのは
最高の贅沢といえるのかもしれません。